『ダンケルク』紆余曲折の脚本ウラ話 ― 脚本なしで撮影する計画、ノーラン監督の試行錯誤

クリストファー・ノーラン監督による最新作『ダンケルク』は、監督自ら「映像を通じてストーリーを語りたかった」と話しているように、セリフをなるべく削ぎ落とした形で紡ぎ出された物語だ。脚本は『インセプション』(2010)以来となるノーラン監督の単独執筆で、その長さはわずか76ページだったという。

しかしノーラン監督によれば、当初本作には脚本を用意することなく製作するという計画もあったという。米誌のインタビューなどで、監督は『ダンケルク』の脚本ができるまでの経緯を明かしている。

注意

この記事には、映画『ダンケルク』の軽微なネタバレが含まれています。

©2017 Warner Bros. All Rights Reserved.

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脚本完成までの紆余曲折

そもそもノーラン監督は、イギリス人として「ダンケルクの戦い」のエピソードによく親しんでいたのだという。しかしその映画化を考えはじめたきっかけは、プロデューサーであり妻のエマ・トーマスと経験した“とある出来事”だったようだ。
エンターテインメント・ウィークリー誌の取材で、ノーラン監督はこのように話している。

「ずいぶん以前、25年前に(エマと)イギリス海峡を渡る旅行をしたんです。僕らの友人が小さなヨットを持っていたので、みんなでイングランドからダンケルクへ渡ったんですよ。ものすごく大変でした。思っていたより道のりは長いし、天気は悪いし、海峡は荒れているしね。その経験が、(ダンケルクの戦いで)撤退作戦に参加した民間の人々への尊敬につながったんです。」

実際に映画化の企画を進めるにあたって、ノーラン監督は史実へのリサーチを重ねたという。そんなある時、彼はある発想に思い至った。それこそが脚本を用意せずに本編を撮影するという手法だったのだ。
これまで数々の映画を製作する中で、セリフによって映画を転がしていく方法を「マスターしたと思った」という監督は、自身の感覚と理解にもとづいて「ダンケルクの戦い」を切り取ろうと考えていたようである。

「映画で扱いたい視野や(人々の)動き、歴史がわかったと思ったんです。とてもシンプルな地理ですしね。そこで“脚本を作りたくない。ただ(観客に)示したいだけなんだ”と話しました。ただ演出して、それを撮るみたいに。」

これを聞いたエマは、ノーラン監督いわく「僕が狂ったかのような目でこっちを見て、“オーケー、全然うまくいかなさそう”って言ってました」とのこと。その発言をきっかけとして監督は再び考え直し、脚本を執筆することに決めたのだという。

難航した脚本作業

ところが脚本の執筆に入ってみると、ノーラン監督は思いのほか作業がうまく進まないことに気づいたようだ。

「具体的にストーリーをどう構築するのか、ストーリーテリングのアプローチはどうするのか、という問題にすごく時間がかかりました。すごくたくさんの方法がありますからね。(ダンケルクの戦いは)本当に大きな出来事なんです。
最終的に自分にとってのカギになったのは、実際にそこにいた人の証言をたくさん読んだことでした。主観的なアプローチがいいとわかったんです。登場人物とともに、観客をビーチや戦闘機のコックピット、助けに向かう船へ放り込む。それがストーリーを語り、この大作映画を成功させるベストな選択だと思いました。」

こうして陸・海・空という3つの時系列で映画を構成すると決めてから、脚本の執筆はとてもスムーズに進んだという。

ちなみに歴史考証を担当したジョシュア・レヴィーン氏によるインタビューでは、ノーラン監督はこんなこぼれ話を語っている。脚本の初期段階では、ドイツ軍の存在がより色濃く匂わされていたというのだ。

「脚本に着手したばかりのころはもっとテンポが悪く、もっと説明的な内容だった。ナチという単語を頻繁に出して、キャラクターの台詞でもナチに言及させていた。敵がどれだけ邪悪で恐ろしい存在だったのかをつねに現代の観客に意識させて、感情移入させたかったんだ。」

ジョシュア・レヴィーン著 武藤陽生訳『ダンケルク』ハーパーコリンズ・ジャパン刊 p.18

完成した映画の、極限まで情報が削ぎ落とされたスマートな脚本に至るには、ノーラン監督による試行錯誤があったのだろう。ちなみに書籍『ダンケルク』掲載のジョシュア氏によるインタビューには、監督による作品の解説も含まれている。気になる方は、ぜひ歴史の背景とあわせてご一読いただきたい。

映画『ダンケルク』は2017年9月9日より全国の映画館にて公開中

Sources: http://ew.com/movies/2017/07/18/christopher-nolan-dunkirk-feature/
http://www.hollywoodreporter.com/heat-vision/dunkirk-director-christopher-nolan-wanted-shoot-movie-script-1026790
ジョシュア・レヴィーン著 武藤陽生訳『ダンケルク』ハーパーコリンズ・ジャパン刊
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About the author

1989年生まれ。ORIVERcinema編集部。わかりやすいことはそのままに、わかりづらいことはわかりづらいまま、少しだけわかりやすくしてお届けできればと思っております。

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