グラミーは差別的で時代遅れ?最優秀アルバム賞を逃した『ビヨンセ・ショック』拡大─ グラミーの白人贔屓を振り返る

それでもグラミーは最優秀アルバムをビヨンセには獲らせない

大方の予想を裏切り、ビヨンセの大名作『Lemonade』が最優秀アルバムを逃した今年のグラミー賞。受賞したアデルの機転の利いたスピーチにより感動エピソードで片付けられがちだが、それではグラミーの、もっと言えば米国の根源的な差別意識は払拭されないと思い、これを機に、グラミーがどのようにして黒人歌手と向き合ってきたか、その歴史を見ていこうと思う。

先述の通り、ビヨンセは再再度、最優秀アルバム賞を受賞できなかった。
受賞したアデルは、壇上から「受賞すべきは自分ではない」と言ったうえで、彼女を賞賛し、世界中の感動を得た。

「私はこの賞を受け取ることができないわ。恐れ多くも感謝の気持ちでいっぱいです。だけど、私の人生におけるアーティストはビヨンセで、彼女の『レモネード』というアルバムはとてつもない作品。ビヨンセ、圧倒的な価値のある作品よ。よく考えられていて、美しくて、ありのままの作品。あなたが普段見せない、知らなかった側面をあなたは私たちに見せてくれた。そのことに深く感謝しているの。そしてここにいるアーティスト全員が、あなたのことを敬愛しているわ。あなたは私たちの光なの」

「そして、あなたが私や私の友人、私の黒人の友人たちに与えてくれる感情に、とても勇気づけられるの。あなたを愛しているわ。これまでも愛していたし、これからもずっと愛し続ける。グラミーの皆さん、アカデミーの皆さんも大好きです。マネージャー、夫、そして息子も愛しています。あなたがいるから、私がここにいる。ありがとう。皆さん、ありがとう」
引用:http://www.tvgroove.com/special/article/ctg/355/tid/1220.html

実に謙虚で感動的な内容であるが、授賞式終了して以来、案の定、各方面からビヨンセに受賞させなかったことへの反論と抗議が殺到している。

中でも怒り心頭なのはフランク・オーシャン。

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彼はグラミーの黒人差別の現実から、自身の作品がノミネートに挙がる事すら拒否している。
その他、ジャスティン・ビーバーをはじめ、カニエ・ウエスト、ドレイクなどの人気大物アーティストも同様の理由から授賞式の出席をボイコットしている。

フランクがグラミーに公開した反論は以下の通り:

「実は今年はCBSの中継を見ようと思っていた。誰が最優秀アルバム賞を獲るのか見たかったからね。というか、何が本当に最高とは言えないTV番組なのか分かるか?
それは、『トゥ・ピンプ・ザ・バタフライ』ではなくて、『1989』が、最優秀アルバム賞を獲るということだよ。
あれこそが、俺がこれまで見た最も欠陥があるTV番組だった。視聴者は、あまりにTV番組がつまらなくて眠くなっちゃうから、みんな翌日に選んでYouTubeを見るだけじゃないか。
どうせなら、マジで蓄音機でも使って聴いたらどうだ?僕は今いる最高のアーティストのひとりだ。文化的偏見とお前達が作る番組が生み出す苦痛について話し合いたいなら、もちろん応じるせ?それじゃあな」

大手有名誌もこぞってビヨンセを選ばなかったグラミー批判

その他にも…

  • NYタイムズ誌
    「『白すぎる』グラミー賞が現実となった日」
  • ワシントン・ポスト誌
    「アデルが、ビヨンセを差し置いて最優秀アルバム賞を受賞したことで、グラミー賞が、今の時代に何の意味もないことが頂点に達した」
  • 文芸雑誌ニューヨーカー
    「毎年、今年こそはと思って見ているが、グラミー賞が時代精神を映し出す日が来るなどということはないのでは?」
  • ローリング・ストーン誌
    「ビヨンセではなく、アデルが受賞した5つの理由」の理由として「投票者が白人で、年寄りだから」という記事まで掲載している。

と各方面から、非難の嵐が巻き起こっている。

フランクが指摘するグラミーの白人贔屓を振り返る

では、実際にグラミーが、どれだけの白人アーティスト贔屓をしているのかを見てみたい。

まず、黒人アーティストの最優秀アルバム受賞に限って探せば、強烈な印象なのは、99年のローリン・ヒルだろう。昨今では考えられないが、R&Bである彼女のアルバム『ミスエデュケーション』が、最優秀アルバムを含む、当時女性としては史上最多の5つのグラミー賞を受賞している。
プレゼンターで現れたホイットニー・ヒューストンも彼女の受賞が発表された瞬間に、興奮が抑えきれない様子だった。

そんな、ホイットニーも最優秀アルバム賞を受賞しているが、それは94年のこと。
その他では、2008年に、ジャズ・シンガーのハービー・ハンコックが、思わず本人も目をひん剥いて驚いた程、意外な受賞をしているが、黒人アーティストの最優秀アルバムの受賞は、ここ20年ではこの3例だけなのだ!

(全体としては59年のグラミーの歴史上、10回にしかならない。テイラー・スイフトとアデルは、ここわずか数年間で2回ずつ受賞しているのに……)

人種差別的と同時に疑問視される保守的傾向のグラミー

しかも、グラミーは人種的な差別傾向と同時に、保守的と言われる傾向もある。

先のハービー・ハンコック然り、大本命と見られていない作品が受賞して、アーティスト本人が驚いている程なのだから、「高齢者向きの保守的な音楽贔屓」の現状を如実に表していると言えないか?

例えば、ハービーが受賞した年は、エイミー・ワインハウスがクローズアップされていた。主要部門全制覇になるかと期待されていた矢先のサプライズ受賞(エイミーは、新人賞、最優秀レコード、最優秀楽曲と主要部門3部門を制覇しているのに、何故アルバムが獲れないかったのか?)。
この時の放映で、ハービーの受賞が発表された時に、プレゼンターが「信じられない」と言ったほどである。

翌年、2009年には、元ツェッペリンのロバート・プラントがアリソン・クラウスとコラボした企画アルバムも、コールドプレイやレディヘッド、ニーヨやリル・ウェインなど、第一線で人気のアーティストを差し押さえて受賞している。正直、元伝説のロック歌手と言えども、過去の人扱いで、歓声も少なく、盛り上がりに欠ける授賞式だった…。

グラミーはその時の世間の人気と必ずしも比例した受賞結果を出さずに、音楽の純粋な評価として受賞させてきたことに、その威厳を保ってきた賞ではあるが、このように「白人」「高齢・保守層」が好むものが最優先され、特に黒人、R&B歌手の作品にスポットライトが当たるということは極端に無いに等しい。

では、実際にビヨンセはグラミーに、どれだけの苦汁を飲まされているのか?

あれだけ毎年のように最多ノミネートと騒がれるビヨンセが主要部門を受賞できたのは、2010年の「シングル・レディース (プット・ア・リング・オン・イット)」の最優秀楽曲賞だけだ。

最優秀アルバムにノミネートされたのは今年を入れて過去に3回。

2017年は『Lemonade』でノミネート、受賞作はアデルの『25』。
2013年は『Beyoncé』でノミネート、受賞作はベックの『Morning Phase』。
2008年は『I Am … Sasha Fierce』でノミネート、受賞作はテイラー・スイフトの『Fearless』。

これら受賞作品が劣ってるとは決して思わないが、ビヨンセの音楽業界と黒人音楽の発展の貢献度、女性の黒人音楽アーティストとしての地位向上などは、言わずもがななものであるし、作品の質としては十分に最優秀アルバムに値するものと言っていい。

レモネード(DVD付)

アデルも賞賛していたように、『Lemonade』は、「ビヨンセ史上最もパーソナルでセンセーショナル、且つエモ―ショナル」と評判も高く、非常に緻密な構成であり、メッセージ性も高く、時代性までマッチしている名作だ。

果たして、彼女に陽の光が当たる日は来るのだろうか?

傾向としての黒人差別、R&BやHIPHOPを避けるのは如何なものかと本当に思う。
そりゃ、カニエだってベックのスピーチを妨害したくなるさ。

Eyecatch Image:https://youtu.be/xjjPxsWrLd4

About the author

音楽や映画をこよなく愛す、通りすがりのエンタメ馬鹿です。
あのブラッド・ピットに会って、ひと言会話したのが唯一の自慢な、ちっちゃい男です(笑)

某大学芸術学部映画学科、音楽業界を経て、現在フリーのクリエーターとして活躍中。

サッカーが好きな方ならW杯を見ながらビール片手にサッカーの試合について熱く語ることでしょう。野球が好きな人も然り。美食家たちは一流レストランへ趣き、料理の品評をする……それと同様に、私は映画と音楽をこよなく愛し、日頃から多くのエンタメに触れています。

そこで知り合えた、少しでも良質なエンタメや、ちょっとした豆知識、現象などが世の中に広がればいいなと常日頃思いながら執筆しております。通ならではの視点で真剣に映画と音楽を向き合いたい、そんな思いを胸に、今日も映画館へライヴハウスへせっせと走って行きます。お粗末な文章ではございますが、どうぞ、皆さん、ご贔屓にして頂きましたら幸いでございます。
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真面目かッ!(笑)

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